浜田省吾が1986年にリリースしたアルバム『J.BOY』は、日本のロック史に残る名盤として今も語り継がれています。その中でも「遠くへ -1973年・春・20才-」は、彼自身の青春の断片をリアルに描いた珠玉の一曲。浜田ファンの心に深く残るこの歌から、J.BOY時代に描かれた若者の風景と心情を紐解いてみましょう。
吾の原点
■ はじめに:J.BOYと浜田省吾
1986年にリリースされた浜田省吾の名盤『J.BOY』。その中でも「遠くへ -1973年・春・20才-」は、彼の青春時代の記憶を鮮やかに描いた珠玉の一曲です。まだ何者でもない若者が感じる不安と希望、そして出会いと別れ。そんな普遍的なテーマが詰まったこの曲を通じて、1970年代の青春の風景に触れてみましょう。
■ 青春の始まりと出会いの朝
“初めてあの娘に出会った朝は 僕は20才で まだキャンパスも春”
1973年、春。新しい季節の訪れとともに、主人公は新生活に胸を躍らせながらキャンパスを歩きます。肩にセーター、新品のバスケットシューズ、長髪をなびかせて駆け上がる校舎。そんな彼の前に現れた赤いヘルメットの女性——すべてがきらめくような出会いの予感に満ちています。
この歌詞の一節には、希望とともに“まだ何者でもない”若者の不安も潜んでいます。彼女との出会いは、人生の転機の始まりでもありました。
■ 孤独の夜と傷ついた心
“その日 あの娘の恋が終ったとは 知らない僕も ひとり寂しかったし”
彼女を飲みに誘った夜、初めての時間を共に過ごします。しかし、その夜は彼女にとって恋が終わった悲しい日でもありました。お互い言葉にはできない孤独を抱えていたことが、静かに明かされていくシーンです。
この瞬間に描かれるのは、若者特有の不器用な優しさ。そして、心が通じ合ったのかどうかも曖昧なまま、ただ隣にいることの意味を探す夜。この描写が「遠くへ」に深い陰影を与えています。
■ 祈りと葛藤――大人への階段
“神よ 僕等に力をかして でなけりゃ今にも 倒れてしまいそう”
この祈りの言葉に込められたのは、20歳の主人公が直面する現実と葛藤。楯の前で空を仰ぎ、打ちのめされそうな心で神に力を求める姿は、若者が社会の壁にぶつかる瞬間を象徴しています。
この時代、浜田省吾自身が感じていた社会への違和感、理想と現実のギャップがリアルに反映されており、今聴いても胸に迫る力があります。
■ 遠くへ――希望への祈り
“星がひとつ 空から降りて来て あなたの道を 照らすのよ”
「遠くへ」というタイトルが象徴するように、主人公は今いる場所ではない“何か”を求めていました。希望を託す場所、まだ見ぬ未来。それは旅や夢、人生そのものとも言えるかもしれません。
この幻想的な歌詞からは、誰かの優しさが未来を照らす瞬間、そして人はひとりではないというメッセージが感じられます。浜田省吾の描く「遠く」は、私たちが日々向かおうとする“心の目的地”かもしれません。
■ おわりに:あなたの「遠く」はどこですか?
「遠くへ -1973年・春・20才-」は、浜田省吾の原点とも言える青春の記録。幹仁さんのように旅や人の物語を綴るブログにとって、こうした曲は素晴らしいインスピレーションになります。
この曲を通じて、自分自身の「遠く」について考えるきっかけにもなりますよね。浜田省吾が描いた「J.BOY」時代の風景と共に、私たちそれぞれの“青春”を重ねてみるのもまた素敵な旅です。