「Misteeer Moonlight!」──ジョン・レノンの魂の叫びで始まるこの一曲を、あなたは覚えているだろうか。
ビートルズの「Mr. Moonlight」は、1964年のアルバム『Beatles for Sale』に収録されたR&Bカバー曲。かつては“浮いた存在”と評されましたが、近年、その生々しい魅力が再評価されています。
深夜ラジオがくれた出会い
私がこの曲に出会ったのは、中学生の頃の深夜ラジオでした。
「オールナイトニッポン」から流れてきたイントロ──その瞬間、胸の奥に火が灯ったのを今でも覚えています。
最近、YouTubeで浜田省吾のライブ映像を見ていた時、久しぶりに「Mr. Moonlight」を耳にして、あの頃の夜の空気が鮮やかによみがえりました。
音楽は時間を越える。まさにその象徴のような曲です。
原曲はR&Bの名曲
「Mr. Moonlight」の原曲は、アメリカのR&Bグループ、Dr. Feelgood & The Internsが1962年にリリースした同名曲。
ゆったりとしたスウィングリズムに、月明かりの下で恋人に語りかけるような甘いメロディが印象的なナンバーです。
ビートルズの4人はこの曲に惚れ込み、自分たちなりのエネルギーを注ぎ込みました。
ジョン・レノンの“叫び”がすべてを変えた
ビートルズ版の冒頭、「Misteeer Moonlight!」というジョン・レノンのシャウト。
これこそが、この曲最大の聴きどころです。
R&Bへの憧れと若きロックンロール魂が混じり合った瞬間。
20代前半のジョンが全身で放ったこの叫びに、リバプール時代からの情熱が凝縮されています。
イントロで鳴り響くハモンドオルガン(演奏はプロデューサーのジョージ・マーティン)も印象的。
少しミステリアスで幻想的な音色が、曲全体を月明かりのように包み込みます。
不完全だからこそ、心を打つ
1960年代のアビー・ロード・スタジオは、今のように編集が自由ではありません。
「Mr. Moonlight」も、ほぼ一発録りに近い“生の演奏”がそのまま収められています。
音の粗さやジョンの息づかいがリアルに残っていて、それがかえって強い生命感を生み出しています。
デジタル修正で完璧な音が作れる今、こうした“ゆらぎ”のある音こそが新鮮に感じられます。
当時は不人気、いまは原点回帰の象徴
発売当時、この曲は「アルバム中で浮いている」と言われ、長らく人気曲ではありませんでした。
しかし、近年では「初期ビートルズの魂を感じる曲」として再評価されています。
ジョン・レノンの荒々しいボーカル、アナログな録音、そしてR&Bへの敬意。
それらが混ざり合って、ビートルズが世界的スターになる前の“原点の息づかい”を伝えています。
「未完成の完璧さ」を聴く
「Mr. Moonlight」は、技術的に完璧な曲ではありません。
でも、完璧じゃないからこそ、心に響く。
洗練よりも情熱、正確さよりも魂──それがこの曲の本質です。
聴くたびに、「不完全でも表現しようとする力」こそが、ビートルズをビートルズたらしめたと感じます。
月明かりの下で聴き直してみよう
夜、少し照明を落として「Mr. Moonlight」をかけてみてください。
ジョンの声の奥から、若き日のビートルズの息づかいが聞こえてきます。
音楽がまだ“手作り”だった時代の輝きが、月明かりのように静かに心を照らしてくれるはずです。


