クリスマスの夜ほど、孤独が胸に刺さる時期はない。
1984年12月24日、福岡サンパレスでのライブを終えた浜田省吾が感じた“ひとりぼっちの痛み”から生まれた「ミッドナイト・フライト」。その背景を知るたび、あの37年前の私自身の失恋の夜がどうしても重なる。幸せな光に包まれた街で、ひとりぼっちの心だけが取り残される、あの独特の痛みだ。
だからこそ、この曲を聴くと、あの夜の自分が静かに顔を出す。
ミッドナイト・フライトが生まれた夜
結論:浜田省吾自身が感じた“孤独なクリスマスイブ”が、この曲の源にある。
1984年12月24日と25日、浜田省吾は福岡サンパレスでライブを行っていた。
イブの夜、ステージをやりきったバンド仲間たちは街のきらめきへと散っていったが、浜田だけは翌日のステージのためにホテルへ戻った。
部屋に戻っても眠れず、彼はふらりと夜の街へ出た。
ホテル近くのカフェバーに入り、カウンターにひとり座ってジントニックを飲む。
その奥では、ドレスアップした若い男女が笑い合っていた。
その眩しい光景に、浜田の胸には“学生時代のみじめさ”と“今夜の孤独”が重なったという。幸せそうな人たちを見るほど、自分の孤独が際立つ。
その瞬間、彼の心の中でひとつの想いが芽生えた。
“どこかにいる、ひとりぼっちの誰かのためにクリスマスの歌を書こう。”
この夜の出来事が、「MIDNIGHT FLIGHT — ひとりぼっちのクリスマス・イブ —」の始まりだった。
曲に流れる“クリスマスの影”
結論:クリスマスは幸せな季節であるほど、孤独を深くさせる。
イルミネーションの光は人を浮き立たせるが、その分だけ影も濃くなる。
街の華やかさの中で、自分だけが取り残されていくような気持ち。
「ミッドナイト・フライト」は、まさにその影を静かにすくい上げる曲だ。
同時期に作られた「SENTIMENTAL CHRISTMAS」にも、そんな“孤独へ寄り添う温度”が宿っている。派手なクリスマスソングとは違い、どちらも心の奥にそっと灯りをともすような静かな一曲だ。
浜田が語った“ひとりぼっちの誰かに向けた歌”という想いが、この曲に確かな輪郭を与えている。
37年前のクリスマスイブ──私の失恋の夜
結論:私自身も、浜田が感じた孤独と同じ場所に立っていた。
私にも、忘れられないクリスマスイブがある。
もう37年前のことだ。夕方、彼女と食事の約束をしていて、彼女が私の家まで来てくれた。いつもと変わらぬイブのはずだった。
玄関先で告げられたその言葉は、胸を貫いた。
「実は……他に好きな人がいる。結婚を考えている」
その瞬間、頭がスッと白くなった。
驚きや怒りよりも、“ああ、終わったんだ”という静かな実感だけが落ちてきた。
その場で別れを受け入れるしかなく、私は気づけば夜の道へ車を走らせていた。
行き先なんてなかった。ただハンドルを握り、クリスマスの光に満ちた街を抜け、暗い郊外へ向かっていった。人がいる賑やかな場所には行きたくなかった。よけいに惨めになる気がしていた。
車内では、カセットデッキに差し込んだ『CLUB SURF & SNOWBOUND』だけが流れていた。
わざわざイブに言わなくてもいいじゃないか──そんな思いが胸の奥で渦を巻いていた。
あの夜、私は間違いなく“世界で一番不幸な男”だった。
少なくとも、あの時の私はそう信じていた。
いま改めて思う「ミッドナイト・フライト」の意味
結論:孤独な夜を“ひとりじゃない”夜に変える力が、この曲にはある。
大人になると、恋の痛みも孤独の重さも、それぞれの形のまま心に残る。
あの37年前の夜の痛みも、時々ふと胸の奥で静かに疼く。
けれど今なら思える。
あの孤独は、自分をつくる大切なひとつの夜だったと。
「ミッドナイト・フライト」は、そんな孤独を否定しない。
悲しみを押し込めず、そのまま抱いていていいと言ってくれる。
ひとりぼっちの夜を抱える人へ、その痛みごと抱きしめるように寄り添ってくれる。人は辛さを乗り越えると強くなれるのが分かった。
だからこの曲は、今の自分だからこそより深く響く。
まとめ:孤独な夜にこそ響く歌
「ミッドナイト・フライト」は、クリスマスの影にそっと灯りをともす歌だ。
幸せに満ちた街の中で感じた寂しさや痛み。その夜を乗り越えた自分が、いまここにいる。
ひとりぼっちのクリスマスイブでも、この歌は確かに寄り添ってくれる──そんな優しさを持った一曲である。


